パンピー図鑑|田坂 眞也 ― 誰かの1ページに関わることで、居場所になっていった

── 配達の仕事とパーソナルトレーニングを並行しながら、模索の途中にいる、田坂 眞也さんの実例から

仕事を変え、住む場所を変え、人との距離を測り直しながら進んできた時間がある。
うまくいかなかった経験も、途中で立ち止まった感覚も、そのまま残っている。

この文章は、まだ何かを成し遂げた人の話ではない。
変化の途中にいる一人の足取りを、静かにたどっていく。


プロフィール

名前:田坂 眞也
活動エリア:関東
主な仕事・活動内容
配達員として現場で働きながら、パーソナルトレーナーとして個別指導を行っている。トレーニングだけでなく、日常の過ごし方や考え方の変化にも関わる形で、人と向き合っている。

これまでの経歴・経験
大学卒業後、環境系の企業に就職し、廃棄物回収や製品化に関わる業務を担当した。その後、同社でルート営業を経験。退職後は、コールセンター、警備、配達業などを業務委託や派遣で行った。二十代後半で東京に移り、営業系ベンチャー企業に入社。名古屋への移動を経て、現在は再び東京に戻り、配達とパーソナルトレーニングを並行している。


子どもの頃から、身体を動かしている時間が多かった

彼は子どもの頃から、
じっと座って何かを考えるより、
身体を動かしている時間のほうが長かったという。

何か一つの目標に向かって突き進むより、
その時々で興味を持ったことに触れながら、
身体を使って確かめていくタイプだった。

運動することは生活の中に自然とあった。
テニスをしたり、筋トレをしたり、
身体を動かしているときの感覚は、
昔から変わらず身近なものだった。

「身体を動かしてるときのほうが、
考えすぎなくて済む感じはありました」

周りと比べて抜きん出ていたわけでもないし、
逆に大きく遅れているという意識もなかった。
良くも悪くも、何に対しても「普通に」こなせてしまった

だからこそ、
将来についても明確な方向を決めきれないまま、
学生時代を終えていった。


東京に出た理由は、前向きなものばかりではなかった

彼が最初に東京へ出たのは、コロナ禍に入ったタイミングだった。

最初の会社を辞めたあと、派遣や業務委託で仕事をつなぎながら、将来像が見えなくなっていた時期でもある。

仕事はしている。
生活も回っている。
それでも、このまま時間だけが過ぎていく感覚があった。

そんな中で、東京にいる友人から声がかかった。

「こっち来てみたら?」

その言葉が、彼の中に残った。

「もう、背水の陣みたいな感じでした」

逃げ場を残したままでは、
また同じ場所に戻ってしまう。
そんな危機感があった。

友人の一言は、
決断の理由というより、
踏み切るための“きっかけ”に近かった。

パーソナルトレーナーとして生きていく可能性を考えたとき、
どうしても避けて通れないものがあった。

「営業からは、逃げられないなって思ったんです」

人に価値を伝えること。
必要だと思ってもらうこと。

それができなければ、
どんな仕事も続かない。

だから彼は、営業ベンチャーへの転職を選んだ。

「できないって分かってるところに、
あえて行った感じです」

東京に出るという選択は、
夢に向かうための準備だった。


結果が出ないまま、時間だけが過ぎていった

営業の仕事は、想像していた以上に、消耗するものだった。

朝から夕方まで、決められたエリアを回り続ける。
インターホンを押して、断られて、次の家へ向かう。
その繰り返し。

「一日中インターホン押してましたね」

玄関先で話を聞いてもらえることは少ない。
途中まで話せても、最後は断られる。

うまくいった感覚を持てないまま、日だけが終わっていった。

帰宅後は、そのまま休むわけにはいかなかった。
トークスクリプトを見直し、先輩の話し方を思い出しながら、
頭の中で何度もやり直す。

「抜けた瞬間は、一度もなかったです」

結果が出ない理由は、はっきりしなかった。

努力が足りないのか。
やり方が違うのか。
そもそも向いていないのか。

周囲の数字が耳に入るたび、比較してしまう自分がいた。
同期が契約を取ったという話。
上司からの「もう少し頑張ろう」という言葉。

「焦りは、ずっとありました」

それでも、すぐに辞めるという選択はできなかった。
ここで投げ出したら、
また「できなかった理由」を増やすだけだと思ったからだ。

「逃げたくない、っていう意地みたいなのはありましたね」

気づけば一年以上が過ぎていた。
成果として残るものは少なかったが、
時間だけは確実に積み重なっていた。

その時間が、正しかったのかどうかは、
当時の彼には、まだ分からなかった。


今に活きているのは、考え方

正直、営業としての成果は、目に見える形では残らなかった。
契約数や売上といった数字で評価される世界の中で、
彼は最後まで「結果を出した側」にはならなかった。

それでも、当時の経験が無意味だったとは思っていない。

「今の仕事に、めちゃくちゃ活きてます」

パーソナルトレーナーとして人と向き合うとき、
彼の頭の中では、かつての営業の感覚が自然と働いている。

相手の反応を一つの答えとして決めつけない。

その日の体調、生活リズム、モチベーション、
言葉の裏にある迷い――
そうした複数の要素を分解して捉えるようになった。

「なんでダメだったかを、分解して考える癖がついたんです」

営業時代は、
「なぜ断られたのか」
「どこで会話が途切れたのか」
「どの一言が余計だったのか」
を何度も振り返っていた。

その積み重ねが、今は
「なぜこの人は続かないのか」
「どこで気持ちが止まっているのか」
を考える視点に変わっている。

「結果は出なかったけど、無駄だったとは思ってないです」

当時は失敗の連続だった出来事が、
時間を経て、別の形で意味を持ち始めている。

営業で得たのは、
売上ではなく、
人の行動や選択を“構造として見る感覚”だった。

そしてその感覚は、
今も彼の仕事の中に静かに残り続けている。


直感は、頭より先に身体に出ていた

彼が「直感」という言葉を使うとき、
それはひらめきや確信といった強いものではなかった。

「なんか、細い光がずっと続いてる感じはあったんですよね」

はっきり見えるわけではない。
ただ、完全に消えることもない。

その感覚は、判断の場面というより、
立ち止まったときにふと戻ってくるものに近かった。

営業の仕事を続けていた頃も、
「このままでいいのか」という問いは、
言葉になる前に、身体の違和感として出ていた。

「進んではいるけど、スピードが分からない感じでした」

止まってはいない。
でも、前に進んでいる実感が持てない。
足は動いているのに、距離感だけが掴めない状態。

東京から名古屋にいく決断も、
何かを強く信じた結果ではなかった。

「戻るのが正解かどうかは、分からなかったです」

ただ、その場所に立ち続けることの方が、
身体的にしんどくなっていた。

彼の中で判断の材料になっていたのは、
成功のイメージよりも、
「ここに居続けたときの気持ち」だった。

「全部やめたい、って感じでもなかったんですよ」

ゼロに戻したいわけではない。
かといって、そのまま続けたいとも言えない。
その中間に、ずっと残り続けていた感覚がある。

それが、彼の言う「直感」だった。

後から振り返れば、
それは特別な判断力ではなく、
身体が先に反応していたサインに近い。

強く背中を押すものではない。
ただ、消えずに残り続ける、
かすかな手応えのような感覚だった。


居場所は、与えられるものではなかった

彼が求めていたのは、
目立つ役割や、分かりやすいポジションではなかった。

今いるコミュニティに参加した当初も、
「ここが居場所だ」と感じていたわけではない。

「最初は、普通に参加してる一人、って感じでした」

人は多い。
会話もある。
それでも、自分がそこにいる意味までは、まだ見えていなかった。

彼が少しずつ変わっていったのは、
何かを“受け取る側”でいるだけでは、
その感覚にたどり着かないと気づいたからだった。

「もらってばっかりだと、居場所って感じがしなかったんですよね」

トレーニングの相談に乗る。
身体の使い方を伝える。
言葉をかける。

小さな関わりを、ひとつずつ重ねていく。

そうしたやり取りの中で、
誰かの変化に立ち会う瞬間が増えていった。

「僕が何かしたことで、ちょっと前に進めたって言われたときに、あ、ってなりました」

そこではじめて、
「ここにいていい」という感覚が、身体に残った。

それは、所属しているから生まれた居場所ではない。

何かを渡し、何かが返ってくる関係性の中で、
あとから立ち上がってきたものだった。

「居場所って、自分で作っていくものなんだなって思いました」

今のコミュニティは、
彼にとって安心できる場所であると同時に、
誰かの人生の一部に関わることができる場でもある。

彼にとっての居場所は、
与えられた席ではなく、
関わり続ける中で、あとから残った手応えだった。


人生の「1ページ」に関われた瞬間

彼がパーソナルトレーナーとして関わる中で、
忘れられない感覚が残った瞬間がある。

身体が変わった、という話ではない。
数字が伸びた、という成果でもない。

「僕がやりたかったのは、これや、って思ったんです」

きっかけは、トレーニングの場面だった。
続けられない理由、途中で止まってしまう感覚、
言葉にしきれない不安。
それらを一つずつ聞きながら、彼は関わっていた。

あるとき、
「もし彼のパーソナルを受けていなかったら、
この選択には至らなかったと思う」
そんな言葉を、相手から受け取った。

「僕が何かしたことで、
その人の人生の流れが、少し変わった感じがあって」

それは、大きな転機を作ったという話ではない。
人生を決めたわけでもない。

ただ、その人の時間の中に、
「前と少し違うページ」が生まれた感覚だった。

「人生の全部じゃなくて、
1ページに関われた、って感じなんですよね」

その感覚は、
彼がずっと探してきた「手応え」に近かった。

営業時代に欲しかったのも、
コミュニティの中で探していたのも、
この「ちゃんと影響している」という実感だった。

「百点じゃなくていいんです。
何かを渡せてるって思えることが、大事で」

今の彼は、
誰かの人生を変えたいとは言わない。
導きたいとも思っていない。

ただ、
言葉にすることをためらっている人の横で、
行動するのが怖くなっている人の近くで、
少しだけ関われる存在でありたいと思っている。

「僕自身も、まだ途中なんで」

完成した姿は、まだ見えていない。
それでも、関わり続ける中で、
こういう瞬間が増えていくなら、
この先も進んでいける気がしている。

彼にとっての未来は、
遠くに掲げる目標ではなく、
誰かの人生に、
また一つページが増える瞬間が、
静かに重なっていく延長線上にある。


本人から

「生き急がなくていいと思ってます」

若いうちに成功することを否定したいわけではない。
ただ、それが幸せにつながっていないなら、立ち止まってもいい。

「言葉にすることと、行動することを、諦めないでほしい」

彼自身も、まだ途中にいる。
二足のわらじを履きながら、調整し続けている。


編集後記

話を聞いているあいだ、何度も「途中」という言葉が浮かんだ。
完成した物語ではなく、進行形の記録に近い。
何かを証明する時間ではなかった。
積み重ねてきた判断と、その揺れが、静かに残っていた。
彼は今、その場所に立っている。

  • コメント: 0

Related posts

  1. 保護中: パンピー図鑑|川原一豊 ー

  2. 保護中: パンピー図鑑|小林 就 ― 治療家として「続く人」が大切にしている5つの考え方

  3. パンピー図鑑|山岸駿介 ― ”ない”ままだからこそ、前に進めた

  4. パンピー図鑑|高橋 菜摘 ― 完璧じゃない毎日。それでも積み上げた先に、”信頼”が生まれる。

コメント

  • コメント (0)

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。